本当に恥ずかしいこととは

ふつうがえらい
がんばりません
ラブ・イズ・ザ・ベスト
どれも佐野洋子


わたしの友達の共通点は、恥ずかしいことつながり。これにつきます。恥ずかしさの感覚が似ていて、笑い飛ばせるくらいの元気がある人物。こういう人達とは、年齢、趣味、職種、性別に関わらず仲良くなれます。
一緒に恥ずかしいことをしたという意味ではありません。

例えば、恐るべき主婦のお茶会に参加した場合。

転勤すると、人間関係も一から作らねばならず、苦手などとは言ってられません。地元の情報をいち早く入手すべく、お誘いがあればお誘いにのってみようと思うのです。時々はこちらからお誘いをかけて、お越し頂くことも。

多くの人と知り合えばヒットの数も増えるというものです。
しかし、苦手は苦手。顔面はお茶会スマイルで武装しているものの 、固まってしまうことが度々です。この人達はわたしと違いすぎる〜!

お茶会というのは、音声をカットした状態で再現するなら、微笑をたたえた女性達が集まり、時々一同が笑いさざめき、和やかを絵に描いたように見えるはずです。
ところがどっこい。世の中そんなに甘くはないのだった。

ある日のお茶会。

「わたし、この間とても恥ずかしかったわ。」

Aさん、ちょっと小首をかしげて恥ずかしそうに言う。わたしはどんな話が飛び出すかと興味津々。
「先日、下の子の入園式があったのだけど、他のお母さん方はみなさん、シャネルかヴィトンを持ってたのよ。わたしは一応、キタムラだったんだけど、並ぶと負けるのよねえ。」

さあて、みなさん。この話のどこが恥ずかしいのでございましょう。

わたしにはちいいいいいっともわからない。

しかし、一座の人々はこぞって
「そおよねえ。シャネルは一個は持ちたいわよねえ。」などとうなずいてるんである!その後一同は、どこでシャネルを買うと安いか、あそこではローンの手数料がないとか、ブランドもの調達の買い物情報で異様に盛り上がっていた。
わたしはローンを組んでブランド物を買う方がより恥ずかしいぞ。

ファッション関係で恥ずかしいなら、わたしの友達Sさんの話を聞いてもらいたい。

「こないだ田舎で中学校の同窓会があったんだけどさあ。どんな格好でいけばいいか悩んじゃって。」
「昼間だったら、ちょっとオシャレな普段着でいいんでないの?」

「わたしも最初はそう思ったんだけど、姉に相談したらきれいにしていくにこしたこたあないって言われて。みんな気張ってくるからって。」
「ふーん、どんなかっこだったわけ?」

「本物、偽物かまわず持ってるジャラジャラものは、みんなつけてった。姉のも借りて。」
「うぷぷ。どうだった?」

「みんな、普通の格好でひとりだけ浮いちゃったんだよ−。首がひきつりそうなほど重いしさあ。恥ずかしかったよお!ひいん。」
わたしは笑い転げたが、彼女は大真面目。

「だってさあ。中学校の時はデコピンとか、ブッスーとかひどいこと言われてたのよ。他の同級生は田舎に留まったのが多くてさ、若い時から東京に出て都会暮ししてるのはわたしだけなわけよ。やっぱ、この辺でさすが都会暮しとか、Sって若いなとか言わせたかったんだってば。」
「で、言ってもらえたわけ?」

「おめえは、かわんねえなって言われた。しくしく。みんな田舎暮しのくせに若いし、おしゃれだったりしてさ。口惜しいよお!あーん、恥ずかしかったってば。」
これでこそ、わたしの友達である。

彼女のために言い添えると、彼女は普段からとてもオシャレである。単品の組み合わせもうまくて、一緒に買い物に行くととても楽しい。そんな彼女が大恥かいたのは、邪念が入ったからだろう。次回の同窓会で、定着してしまった評価をどうくつがえすか楽しみなんである。

お茶会は、どんどん話題が変わっていって、根回ししてあるのかと疑うくらいスムーズに時は流れた。とうとうその日一番みなさんが興奮した話題にたどりついた。
ずばり、自分の子どもに賞状をとらせるにはどうやったらいいか

「○○さんの所は自由研究で県展特選ですって、すごいわねえ。」
などとほめ合い、ほめられた当人が、栄光の陰で母がどれだけ手助けしたかを披露する。
その苦労話をみなさん、
「そうよねえ、やっぱりそこまでやらないといけないわねえ。」
などと感心してるんである!ほんとにそう思ってるんですかあ?!

この辺りになると、集まったお母さん方、顔は笑ってるんだが目が真剣で怖い。
とどめの話題が出た。

「一年生の冬休みに毛筆作品を出品すると、まずまちがいなく賞状がもらえるわよ。」

もう、ここにわたしの居場所は無い。

わたしはひとりで恥ずかしいなあと嘆息するのみである。はしたないっていう言葉は消えたんですか?

やっぱり、恥ずかしさの感覚が似ていないと友だちにはなれないのだ。佐野洋子を読んでますますその感が強まりました。恥ずかしいことと本当に恥ずかしいこと、この違いがわかるひとと内緒話をしたいものだと思います。この3冊を読んで、佐野さんと友達になりたいと思われた方、きっとわたしと話が合うでしょう。

お茶会のその後。
お茶会で、何度もあくびをしたせいか、そのグループのお茶会に誘われることは二度とありませんでした。
しばらくして、あの時集まっていた人々もバラで付き合うなら、イヤな感じではないことが判明。お茶会の場面設定がきっとみなさんを暴走させたのでしょう。でも、あの真剣な目を思いだすと友達にはなれないなあと思ってしまうのだった。わがままかなあ?


ふつうがえらい 新潮文庫440円
がんばりません 新潮文庫450円
ラブ.イズ.ザ・ベスト 新潮文庫360円
佐野洋子

『100万回生きたねこ』の作者です、といったらピンと来る方が多いのでは。どれも佐野さんの周りで起ったことを題材にしたエッセイ集です。元気のない時にはこの本を読み返します。元気は出ません。でも今の自分を認めてやろうという気になります。いろんなことがあっての人生。うれしいことも悲しいことも全部ひっくるめて自分と付き合っていこうという勇気が出ます。歩みがのろくっても良いや。人間、相性よね。