はるか昔に、書評を書くように言われて早数ヶ月。
そろそろ忘れられた頃合いなので、書いてみようかと思うのであります。 取り上げた本は、ボクの大好きなデイヴィッド・ブリン氏の出世作・スタータイドライジングであります。
泣く子も黙るハヤカワ文庫SFです。(ふにゃお院長談)

イルカショーが好きだった少年の頃
デイヴィッド・ブリン
「スタータイドライジング(上・下)」(早川書房)


そうです。
小さい頃、イルカショーが好きだったのです、ボクは。
おねぇさんが「サッ」と合図すると、ならんで「ダダダーン」と飛び出てくるイルカたち。
凄いなぁ。
気持ち良さそうだなぁ。
その時は、何も分からぬ幼気(「いたいけ」って漢字で書くとこんな風なんだ!)な少年だったボクは、ただただ目を丸くするばかりだったのでした。

それから、月日が流れること十数年、再びイルカショーを見に行く機会があったのでした。
その時は、余計なことは色々知っている、嫌な青年であったボクは、それでもまだイルカショーにときめいていることに気付いたのでした。
しかも、嫌な青年だからこそ気が付くこともあったのです。

その時のイルカたちは、仕事だからと割り切って嫌々飛んだり跳ねたり回ったりしてるのではなく、ホントに好きで(彼らがホントに好きなのは、飛んだり跳ねたり回ったりすると、おねぇさんから貰える魚の方だろうけども)やってるようなのでした。
このイルカたちは、「自分達は芸をすることで身を立てているのだ」ということを理解しているに違いありません(きっと)。
何せこいつら、カメラを向けると、ポーズを決めたりなんかするのです。
館内でフラッシュ撮影をしたらストレスが溜まってどうにかなってしまう、木の上で寝ることしかできないオーストラリアの珍獣とはえらい違いなのです。
その時ボクは、人類が滅んだ後文明を築くのは、サルでもゴキブリでもなくイルカかも知れない・・・・・と本気で思ったのでした。

で、本題なんだけども、今回ご紹介させていただく作品はボクの大好きな作家、デイヴィッド・ブリンの「スタータイドライジング」であります。
もう無茶苦茶ダイスキなんですね。
これ。

とにかく、登場人物(?)のほとんどが、遺伝子操作で知性が与えられたイルカというとんでもないスペースオペラです。
そうです。
イルカが宇宙船を操縦してるんですぜ。

しかも、単純にイルカを擬人化してる訳じゃなく、それなりにイルカの生態や行動学をしっかり踏まえた上で「イルカに知性があったら・・・・」って書き方だから、子供向けSFになってないところがポイントです。
(っていうか、最初の方は複雑な設定やらイルカの哲学(!)やらを飲み込むまで、かなりムツカシイかもしれないです。)
要するにこの作品のイルカどもは、子供の頃見たイルカショーのイルカと同じように、泳ぐのダイスキ跳ねるのダイスキ、ついでに歌うのダイスキなのです。
しかも、こちらがちょっと気を許すといきなり俳句(!)を詠み始めたりもします。
イルカたちは、天性の遊び屋で詩人なのです。

そんなイルカたちが操縦する宇宙船が、ひょんなことから宇宙生成の秘密を握ってしまい、全宇宙の列強種族(これまた奇想天外なエイリアンどもなんだけども)に追いかけ回されて、未開の惑星に不時着して・・・・って感じで話は始まります。
で、空からはエイリアンどもが襲ってくるわ内部では仲間割れするわ未開の惑星の原住民がからんでくるわで大騒ぎ。
船長さんはすっごく頼れるいい人(というかイルカ)だし、その彼女の(もちろんイルカ)はカワイイ。
さらに、イルカよりもイルカらしい主人公(こちらは人間なのだ)の活躍にはハラハラしっぱなしだし、イルカの遺伝子をいじったりしてるマッドサイエンチストっぽい人(こちらも人)やら、人の話を聞かないチンパンジー(こいつも知性化されてるのだ)やら、イルカにバカにされながらも頑張る少年とイルカの友情物語やらも出てきて、上下合わせて800ページっていう無茶苦茶に長い話なんだけども、あっという間に読み切ってしまえます。
ふと気が付けば、隣にイルカが泳いでいないことが不思議に思えるようになっているでしょう。

ちなみに「スタータイドライジング」は、確か1980年ぐらいの作品で、その年のヒューゴー賞・ネビュラ賞の両方を取りました。
良く分からない人の為に言うと、ヒューゴー・ネビュラのダブルクラウンを取るってことは、アカデミー賞を取りながらカンヌ映画祭でパルムドールを取るようなモノですね。
ついでに、デイビッド・ブリンと言えばケビン・コスナーの「ポストマン」の原作者でもあります。
この映画の評判が悪いのは、全てケビンコのせいです。

さぁ、この本を読んでオモシロイと感じてしまったら、次は続編の「知性化戦争」に挑戦しましょう。
今度は1000ページを軽く超える長編だけども、こちらもすっごくオモシロイです。
こちらの作品ではチンパンジーが主人公です。
より社会派(?)かも。

書評byふなふな動物病院長ふにゃおくん


スタータイドライジング・上下巻共に¥602
知性化戦争・上巻¥680/下巻¥757
いずれも、デーヴィッド・ブリン/早川SF文庫